東京地方裁判所 昭和38年(ワ)991号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕賃料の延滞一回でも催告を要せず賃貸借を解除できる旨の契約条項は、これを正当化する特別の事情がない限り、当事者間の公正を害すること甚しく無効と解すべきである。
〔判決理由〕成立に争いない甲第一号証によれば、右条項は、「乙は賃借料を毎月二八日限り甲に支払い、もし一ケ月でも延滞したときは、敷金の有無に拘らず、催告を要せず、此契約が解除されたものとして甲より室の明渡を請求されても異議はない。」というものであつて、これを文字どおり解すれば、賃料の支払を一日でも延滞すると、それによつて賃貸人は催告を要せず直ちに賃借人に対し明渡請求をすることができることになり、賃借人にとつて非常に苛酷な条項となる。どのような賃借人でも、長い間には、病気、不時の旅行、その他やむをえない事情で賃料の支払を延滞することは考えられる。そのような場合に、賃貸人の意のままに無催告で賃借権が奪われるものとするならば、家屋賃借権は余りにも弱いものとなり、継続的法律関係における当事者間の公正を害すること甚しく、借家権の保護強化を目的とする借家法の趣旨にも反する。従つて、かかる条項は、これを正当化する特別の事情(たとえば、過去において借家人側に著るしい不信行為があり、これに対する罰則的な意味で和解、調停等において特に合意された場合等)なきかぎり、暴利行為が公序良俗違反として無効とされるのと同様な理由により、無効と解すべきである。そして本件の全証拠に照らすも、これを正当化する特別なる事情を見出すことはできないから、前記無催告解除の条項は無効である。(渡辺均)